
大気境界層のところが難しいです!
基礎から説明してもらえますか?

大気境界層についての問題は、学科試験の一般知識でも専門知識でも登場します。
今のうちにしっかり学んでおきましょう!
私たちが普段生活している地表付近の大気は、上空の「自由大気」とは異なり、地表面からの熱、水蒸気、運動量の影響をダイレクトに受けています。この層こそが、大気境界層です。
大気境界層は、その構造が昼夜で劇的に変化し、霧、雷雨、フェーン現象、そして大気汚染など、私たちが予報すべき重要な気象現象の多くを生み出しています。
本記事では、大気境界層の基本的な構造から、昼間の主役である混合層の詳細、そして試験で頻出する温位や乱流フラックスの概念まで、図とグラフを使って徹底解説します。この知識をマスターし、大気境界層を「得意分野」にして高得点を目指しましょう!
※この記事は、当講座に在籍する気象予報士が監修しております。
大気境界層とは?
大気境界層は、地球の表面(地面や海面)からの熱や水蒸気、運動量の影響を直接受ける大気の下層部分を指します。

昼間の平均的な厚みは一般に約 1km〜 3km程度で、その厚さは気温や緯度など、多くの要因によって変化します。

大気境界層の厚さは一定ではありませんが、晴天時の中緯度において、その厚さ(高度)は一般的に以下のようになります。
- 昼間: 地表面からの強い加熱により大気がよく混合され、大気境界層は高度を増します。通常、約1 kmから3 km程度まで発達します。
- 夜間: 放射冷却により地表付近が冷やされ、乱流混合が弱まるため、大気境界層の厚さは非常に薄くなり、数十メートルから数百メートル程度となることが多いです。
大気境界層の厚さ(高度)を左右する要因
大気境界層の厚さは、主に以下の要因によって変化します。
- 日射: 太陽放射が強い昼間は厚くなり、夜間は薄くなります。
- 風速: 風が強いと乱流が活発になり、鉛直混合が促進されて大気境界層が厚くなります。
- 自由大気の成層安定度: 大気境界層の上にある自由大気が非常に安定している場合(強い逆転層がある場合)は、大気境界層の発達が抑制され、薄くなります。
- 雲: 雲(特に層雲や層積雲)が存在すると、太陽光を遮断するため、地表からの加熱が抑えられ、大気境界層の発達が制限されます。
緯度との厚みの関係
低緯度地域で大気境界層が厚くなります。
これは、強い太陽放射と地表面からの強い加熱が主な理由です。
低緯度地域は太陽光がほぼ垂直に地表に当たるため、単位面積当たりの日射量が非常に大きくなります。
この強いエネルギーが地表面を効率よく加熱し、空気塊に大きな浮力を与え、激しい上昇流を引き起こします。
強い加熱と対流により、地表からの熱や水蒸気がより高い高度まで効率よく輸送され、混合層が深く発達します。
特に乾燥地域では、水分の蒸発による潜熱消費が少ないため、ほとんどの熱が顕熱として大気に供給され、大気境界層は3kmを超える厚さになることも珍しくありません。
対照的な高緯度地域
一方、高緯度地域(温帯、寒帯)では、日射量が少なく地表からの加熱が弱いため、大気境界層は低緯度ほど深く発達しません。
典型的な温帯域の晴れた日でも、混合層の厚さは1 km〜 2 km 程度に留まることが多いです。
大気境界層の構造は、これらの要因が複雑に絡み合って変化することを理解しておきましょう。
- 定義: 地表面との相互作用により、日変化(1日の中での変化)が顕著に現れる層です。
- 特徴: 乱流が卓越しており、熱や物質の輸送を担います。
大気境界層の三層構造
大気境界層は、その特性によって一般的に接地層・混合層・移行層の3つに分けられます。

この3つの層は地表面からの距離が遠くなるにつれて、地表摩擦の影響や乱流の性質が変化することで区分されます。(この構造区分は、主に昼間の活発な対流状態を前提としています。)
| 層の名称 | 厚さ(目安) | 鉛直混合と乱流の性質 | 主要な特徴と役割 |
|---|---|---|---|
| 1. 接地層 | 数十メートル | 運動量、熱、水蒸気の輸送(フラックス)が鉛直方向にほぼ一定 | 風速・気温・湿度などが急激に変化する。地表面の直接的な影響が最も強い。 |
| 2. 混合層 | 数百メートル〜数キロメートル | 乱流による鉛直混合が最も活発。熱と運動量を上空に輸送。 | 温位 、混合比 、風速が高度に対してほぼ一定(均質)になる。 |
| 3. 移行層 | 数百メートル | 混合層上端の、自由大気との境界領域。 | 混合層内の空気が自由大気の安定層に取り込まれる領域。温位が急増する逆転層を伴う。 |
1. 接地層

構造と特徴
- 厚さ: 地表から数十メートル(平均 10m〜 50 m 程度)の最も薄い層です。
- 特徴: 地表面からの摩擦、加熱、蒸発の影響を最も強く受ける層です。
- 風速、気温、湿度の鉛直勾配が非常に大きい(高度が上がるにつれてこれらの値が急激に変化する)。
- 輸送(フラックス): この層では、地表面から供給される熱、水蒸気、運動量の鉛直輸送量(フラックス)が、高度によらずほぼ一定であると仮定されます。これを「フラックス一定層」とも呼びます。
- 風速: 風速の鉛直分布は、対数則に従って変化すると仮定されることが多いです。
乱流輸送(フラックス)が「鉛直方向に一定」とは?
接地層では、地表から供給された熱や運動量が乱流によって混合層全体に均等に、かつ効率よく輸送されているため、乱流フラックスは鉛直方向にほぼ一定となります。
接地層は、地表面から数十メートルまでの、最も地表面に近い薄い層です。この層では、地表面からの熱、水蒸気、運動量の供給・吸収が直接的かつ強力に行われています。
そして、地表面からの輸送量(フラックス)が、この薄い層内で散逸したり、追加で生成されたりすることなく、そのまま上空へ運ばれていると仮定されます。
このため、乱流フラックス(顕熱フラックス、潜熱フラックス、運動量フラックス)が高度によらずほぼ一定であると見なされるのです。
2. 混合層

構造と特徴
- 厚さ: 接地層の上から、大気境界層のほとんどを占める層です(数百メートル〜数キロメートル)。
- 特徴: 地表面からの加熱による浮力が引き起こす自由対流(サーマル)によって、鉛直混合が最も活発に行われます。
- 均質性: 激しい乱流(かき混ぜ)の結果、温位 、混合比 、そして風速が高度に対してほぼ一定(中立成層)になることが特徴です。
- 役割: 地表からの熱や水蒸気を上空へ運び、大気境界層全体に拡散させる役割を担います。
3. 移行層

構造と特徴
- 厚さ: 混合層のすぐ上にある、比較的薄い層です(数百メートル程度)。
- 名称: エントレインメント層、あるいはキャッピング逆転層とも呼ばれます。
- 特徴:
- 境界: 活発な乱流のある混合層と、その上にある安定した自由大気との間に位置する「境界領域」です。
- エントレインメント: 混合層の上昇するサーマル(空気塊)が、混合層外の安定した乾燥した空気(自由大気)を混合層内に引きずり込む(巻き込む)現象(エントレインメント)が起こります。
- 温位の急増: 温位が高度とともに急激に増加する逆転層を伴います。この逆転層が、混合層の上限(蓋)となり、それ以上の大気の発達を抑制します。
このように、三つの層は「地表面からの影響の受け方」と「乱流による鉛直混合の度合い」によって明確に区別されます。特に、接地層の「フラックス一定」と混合層の「温位・混合比一定」という物理的性質を関連付けて理解することが、試験対策では重要です。
主要な物理量の鉛直分布を詳しく理解する
混合層とABL構造の理解には、温度、温位、風速、混合比がどのように高度とともに変化するか(鉛直分布)の把握が必須です。
| 物理量 | 混合層(昼間) | 接地逆転層(夜間) | 試験対策上のポイント |
|---|---|---|---|
| 温度 | 緩やかに減少 | 増加(逆転層) | 実際に測温する値。夜間の逆転層が重要。 |
| 温位 | ほぼ一定(中立) | 大きく増加(安定) | 大気の安定度を示す最重要指標。 |
| 風速 | 一定に近づく | 地表付近で急激に増加 | 乱流混合の活発さでプロファイルが変化。 |
| 混合比 | ほぼ一定 | 地表付近に集中 | 地表からの水蒸気供給の混合度合いを示す。 |
エクマン層はどの部分?
エクマン層は、大気境界層内の、摩擦力の影響がおよび範囲のことで、それは大気境界層全体かもしれないし、地上からある程度の高さのみの場合もあります。
この層では、摩擦力とコリオリ力、気圧傾度力の三つの力がバランスして風が吹いています。
特徴: 摩擦力は地表に近づくほど大きくなるため、風速は地表で最も弱く、上空ほど強くなります。さらに、これらの力のバランスの結果、風向が高度とともに変化し、上空の地衡風(摩擦がないと仮定した場合の風)の方向から、地表に向けて右回り(北半球の場合)に回転していきます。
これをエクマンスパイラルと呼びます。
気象予報士試験に出る大気境界層の知識
① 数値予報モデルの「パラメタリゼーション」
数値予報モデルは、大気境界層内の乱流のような小さな現象を直接計算できないため、その効果を境界層パラメタリゼーションとして表現しています。
大気境界層の安定度の理解は、モデルの熱輸送係数などを決定づける土台となります。
② 台風や低気圧の地上付近の風
大気境界層内の摩擦力が風速を弱めることで、気圧傾度力が優勢となり、風が中心に向かって吹き込む(収束)現象が生じます。
この摩擦による収束が、台風の強力な上昇流を維持する重要なメカニズムの一つです。
過去の出題された大気境界層についての問題
気象予報士試験の過去問の中から、大気境界層に関する問題を抜粋します。
風の弱い晴れた日の平坦な陸上で見られる大気境界層(接地境界層と対流混合層)の一般的な特徴について述べた次の文(a)~(d)の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の①~⑤の中から1つ選べ。
(a) 正午頃の接地境界層では、気温は乾燥断熱減率で高度とともに低下している。
(b) 接地逆転層は昼過ぎに現れ、日の入りの頃、厚さが最大となる。
(c) 正午頃の対流混合層では、水蒸気の混合比及び相対湿度は、高度によらずほぼ一様である。
(d) 正午頃の接地境界層では風速は高度とともに増加しているが、対流混合層ではほぼ一様である。
上記の問題の場合、正しいのは (d) だけです。
一般知識として、正しく理解できているかを問われています。
他には、専門知識との絡みで、こんな問題もありました。
- メソモデルは全球モデルに比べ解像度が高いが、大気境界層中の様々な渦の振るいを十分表現することができないため、大気境界層過程のパラメタリゼーションを用いている。(正しい)
- 発達中の台風において、台風中心へ向かう動径方向の風の成分は、高度方向に見ると大気境界層の中で最大となっている。(正しい)
- 台風に伴う大気境界層内の風は傾度風で近似でき、気圧傾度力とコリオリカ及び遠心力が釣り合っている。この釣り合いにより、大気境界層では台風の中心に向かう風が現れる。(誤り)
- 発達した台⾵において、⾵の接線成分と動径成分は、ともに⼤気境界層の上の⾃由⼤気下層で最⼤となる。 (誤り)
数値予報モデルとの関係、また、大気境界層内で台風などの擾乱がどのように振る舞うのかをしっかり理解しておかなければ答えられませんね。
覚えることが多くて大変ですが、自分なりにノートにまとめて整理しておきましょう!
さいごに
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