【下書き】【バックビルディング現象】メカニズム・原因をわかりやすく!

線状降水帯は、文字からなんとなくイメージできるのですが、バックビルディング現象ってどんな現象ですか?

デミー先生
デミー先生

バックビルディング現象とは、積乱雲(特に線状降水帯を構成する雲)が風上側に次々と新しく発生し、同じ場所に連続して強い雨を降らせる現象です。

線状降水帯の発生にも関わるバックビルディング現象は、時に局地的な大雨や災害を引き起こす可能性があります。(▶︎線状降水帯についてはこちら

そのメカニズムを理解することは、防災の観点からも非常に重要です。

しかし、「なぜ同じ場所で雲が次々と生まれるのか?」「どのような条件が重なると発生するのか?」など、その仕組みは複雑で、なかなか理解しにくいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。

この記事では、そんなバックビルディング現象について、そのメカニズムと発生原因を、専門的な知識がない方にもわかりやすく解説していきます。
この不思議な気象現象の謎を解き明かし、空のサインを読み解くための一助となれば幸いです。

※この記事は、当講座に在籍する気象予報士が監修しております。

バックビルディング現象って何?

バックビルディング現象とは、積乱雲(特に線状降水帯を構成する雲)が風上側に次々と新しく発生し、同じ場所に連続して強い雨を降らせる現象のこと。

線状降水帯の形成過程の一つです。

具体的には、積乱雲の後方(風上側)で新しい積乱雲が発生し続けることで、1つ1つの積乱雲が移動しても、全体としては降水域があまり動かないように見えるのが特徴です。

その結果、狭い範囲に長時間強い雨が降り続け、線状降水帯や局地的な豪雨の原因となります。

この現象は主に次の条件で起こりやすいです

  • 湿った空気が風上から継続的に流れ込む
  • 上昇気流が維持される地形や前線の存在
  • 風の鉛直シア(高度によって風向・風速が異なる)

そもそも雨雲ってこんな雲

「バックビルディング現象」の前に…そもそも雨雲とはどんな雲なのでしょうか?

2022年9月5日 23時20分 台風11号がもたらした雨雲 出典:気象庁 雨雲の動き

雲は、できる高度と性状から国際雲分類表で代表的な十種類に分類されており、これを十種雲形といいます。
このうち、まとまった雨(降水現象)を降らせるのが、「乱層雲(らんそううん)」「積乱雲(せきらんうん)」です。

性状とは雲の性格のようなもの。

層状雲(そうじょううん)の代表「乱層雲」はしとしと雨、対流雲(たいりゅううん)の代表「積乱雲」は※ザーザー降りのような雨が特徴です。
※雨の強さの表現は気象庁で定義されています。気象庁:雨の強さと降り方

この降り方の違いをもたらすのが、「雲のできかたの違い」です。

層状性の雲のでき方

(下図右)層状性の雲の代表【乱層雲】 上昇気流の速さは数cm/s~十数cm/s。
暖気が寒気の上をゆるやかに昇っていきます。
上昇気流も弱いので、雨粒のもととなる水滴が大きくならずに落下してきます。

対流性の雲と層状性の雲のできかた

対流性の雲のでき方

(上図左)対流性の雲の代表【積乱雲】 上昇気流の速さは1~10m/s。
雲が発達する段階では強い上昇気流により、雨粒のもととなる水滴(降水粒子)がなかなか落下できません。
雲内でどんどん成長し、上昇気流でも支えられなくなると、大きな雨粒となって落ちてきます。

デミー先生
デミー先生

バックビルディング現象を起こすのは、この対流性の雲です。

雲のでき方についてもっと詳しく知りたい方はこちら

なぜ対流性の雲がバックビルディング現象を起こすのか。

それ対流性の雲の成り立ちを知るとよくわかります。

対流性の雲の成り立ち

対流とは、液体や気体などの流体が、温度差によって温かい部分が上昇し、冷たい部分が下降するという動きを繰り返すことで、熱が移動・循環する現象のことです。

簡単に言えば、「温かいものは軽くなって上がり、冷たいものは重くなって下がる」という性質によって、物質そのものが動いて熱を運ぶことです。

これが大気の中で起こると、暖かい空気は周囲の空気より軽いため上へ昇り、冷たい空気は重いので、下へと降りようとします。
これが「大気の状態が不安定」のという状態です。

対流
大気の状態が不安定

実際の気象条件では、寒気が上空に入ったときのほか

  • 寒冷前線付近で寒気が暖気の下へ強制的にもぐりこむとき
  • 風が山岳にぶつかって上昇するところ(山岳の強制上昇
  • 風が集まるところ(風の収束

上記のような条件で地表付近の暖気が持ち上げられることで、「積乱雲」が発生・発達するのです。

では、「積乱雲」が生まれてから、消えていくまで、どのような人生…ではなく”雲生”を送っているのでしょうか。

積乱雲(せきらんうん)の一生
Cb-development

【まだまだ成長するよ、元気いっぱい発達期

・雲内のほとんどが上昇気流

・強い上昇気流により、雨粒が地上まで落下できない

・雲内は水滴と過冷却水滴(0℃を下回っても凍らない水)で構成

・雲の頂上(雲頂)の温度が-20℃を下回るころから、氷の結晶(氷晶)が多くなる

Cbs-prime

【バリバリはたらく最盛期

・雲内で上昇気流と下降気流が共存

・雲頂の温度が-40℃以下となり、上部はほとんど氷晶に

・氷晶が成長した氷粒子が落下するが、強い上昇気流によって再び上昇

・大きく成長したあられや雹(ひょう)は、強い上昇気流を突き抜けて地上へ落下

・激しく下降する気流(下降気流)が、ときには竜巻のような突風を引き起こす

・強い雨(降水強度:20mm/h以上)となり、雹(ひょう)や落雷をともなう

Cb-decline

【”雲生”をふりかえる衰弱期

・雲内は上昇気流がほぼなくなり、下降気流が占める

・弱い層状性の雨をともなうことがあるが、長続きしない

一つの積乱雲(単一セル、雲の塊のこと)の寿命は30分~1時間程度。
また水平方向の広がりは数km~十数kmで、局地的な範囲に限られます。

このため安全な場所で雷雨が過ぎ去るのを待てば、やり過ごせますね。

さあ、積乱雲の成り立ちは分かりましたね。
では次でいよいよ、「バックビルディング現象」のメカニズムについて解説します。

バックビルディング現象のメカニズム

バックビルディング現象は、主に複数の積乱雲(降水セル)が、特定の気象条件下で連続的に発生・発達することで引き起こされる。

この「バックビルディング現象」を図解でまとめてみました。

1)地表付近の暖かく湿った空気が上昇し、積乱雲(A)が発生。上空の風と地表付近の風の方向(風向)はほぼ同じ
2)発達した積乱雲(A)は最盛期を迎え、地上では大雨、落雷、降雹、突風などが発生。風上では新たな積乱雲(B)が発生
3)大雨を降らせた積乱雲(A)は衰弱期に入り、やがて消滅していく。一方、風上では新たな積乱雲(C)(D)が次々に発生

このように雲の世代交代がくり返されることで、局所的な大雨=集中豪雨が長時間続いてしまうのです。

この現象の鍵となるのは、「風のシア(鉛直シア)」「地形の影響」「寒気と暖気のぶつかり合い」が複合的に作用し、積乱雲が発生・発達しやすい環境が維持される点にあります。

さらに、バックビルディング現象を強化し、特定の場所で長時間継続させる要因として、以下の要素が挙げられます。

なぜ同じ場所で雨雲が発生するの?

地形の効果

山岳地帯の風上側斜面などでは、地形が暖湿な空気の強制上昇を促し、積乱雲の発生場所が固定されやすくなります。

例えば、風が山にぶつかって上昇する際、その風下側で発生した積乱雲から冷気外出流が風上側に広がり、新たな積乱雲が山に押し上げられる形で次々と発生するといったケースがあります。

風の収束帯

低気圧や前線に伴う風の収束帯など、元々空気の収束が起こりやすい場所では、その場所で絶えず上昇流が発生しやすくなります。

このような収束帯が、積乱雲の発生域を「固定」する役割を果たすことがあります。

上空で適度な風速

積乱雲全体を流し去るような上空の強い流れがない場合、個々の降水セルが比較的ゆっくりと移動するか、あるいは新しいセルが風上側に次々と形成されることで、現象全体として同じ場所で停滞しているように見えます。

降水域が固定している状態になるには、上層の風と下層の風のバランスもポイントになります。

連続的な積乱雲の再生と豪雨

上記のようなメカニズムが繰り返し起こることで、既に発達した積乱雲が風下側に流れていく一方で、その風上側(後方)では冷気外出流と暖湿な空気の流入により、次々と新しい積乱雲が生成・発達します。

この「新しい積乱雲の生成」→「成長」→「雨」→「冷気外出流」→「新たな積乱雲の発生」というサイクルが、地形や風の条件に固定された場所で継続的に行われることで、同じ場所に長時間にわたって強い雨が降り続くことになります。

デミー先生
デミー先生

これが、バックビルディング現象が線状降水帯の一部として、局地的な大雨や浸水被害を引き起こす主要なメカニズムです。

線状降水帯との関係

バックビルディング現象は、線状降水帯の形成過程の一つです。

他にはスコールライン型,バックアンドサイドビルディング型があるとされています。
しかし自然現象ですから、これらをはっきりと分けることも難しいのです。

バックビルディングって昔からあった?

バックビルディング現象は、日本のメディアで「線状降水帯」がよく聞かれるようになるずっと前から、その名称もあり、研究されていました。

英語由来のカタカナ語なので、すでに想像されている方も多いでしょうが、1980年代にはアメリカですでに提唱されていました。

一方、「線状降水帯」という名称は、数年前まで気象予報士の中でも「線なの?帯なの?」とその名称でいいのか?という意見が出ていたことがありました。

しかし2021年6月から気象庁の発表にも使われるようになり、現在では一般にも広く知られるようになりましたね。

近年になって増えた?

バックビルディング型の線状降水帯、ひいては線状降水帯による集中豪雨は、近年増加傾向にあると考えられています。

この増加の背景には、主に以下の要因が挙げられます。

地球温暖化の影響

大気中の水蒸気量の増加

気温が上昇すると、大気中に蓄えられる水蒸気量が増加します。

一般的に、気温が1℃上昇すると大気中の水蒸気量は約7%増加すると言われており、これにより、線状降水帯の「燃料」となる水蒸気が豊富に供給されやすくなります。

大気の状態の不安定化

温暖化により下層の暖かく湿った空気と上層の冷たい空気の温度差が大きくなり、大気の状態がより不安定になりやすくなります。
これにより、積乱雲が発生・発達しやすくなります。

気象庁気象研究所などの研究によると、地球温暖化が進んだ場合、線状降水帯の平均的な年間発生回数は、世界の平均気温が2℃上昇で1.3倍、4℃上昇で1.6倍に増加すると予測されています。

観測技術の向上と認知度の向上

気象レーダーなどの観測技術の進歩により、以前は見過ごされていた線状の降水域が明確に捉えられるようになり、線状降水帯として認識される機会が増えました。

「線状降水帯」という言葉がメディアで頻繁に用いられるようになり、国民の認知度が高まったことも理由の一つでしょう。
これにより、これまで「集中豪雨」として一括りにされていた現象の中から、線状降水帯に該当するものがより注目されるようになった側面もあります。

これらの要因が複合的に作用し、特に甚大な被害をもたらすバックビルディング型の線状降水帯の発生頻度や強度が増していると考えられています。

どんな時に発生する?

バックビルディング型の線状降水帯は、主に以下の気象条件が揃ったときに発生しやすくなります。これらの条件が長時間持続することが、集中豪雨に繋がるポイントです。

暖かく湿った空気の大量かつ継続的な流入

線状降水帯の「燃料」となるのは、暖かく湿った空気、つまり大量の水蒸気です。

太平洋高気圧の縁辺や南シナ海・東シナ海からの湿った空気が、日本の南海上から梅雨前線や低気圧に向かって継続的に流れ込み続けることが不可欠です。

この湿った空気の供給が途絶えない限り、積乱雲は次々と発生・発達し続けます。

大気の状態が不安定であること

下層に暖かく湿った空気、上層に冷たい空気が存在し、大気の温度差が大きいと、空気が上昇しやすい「大気の状態が不安定」な状態になります。

これは積乱雲が発生・発達するための基本的な条件です。

強制的に空気を持ち上げるメカニズム

暖かく湿った空気がただ存在するだけでは積乱雲は発生しません。
何らかの要因で空気が強制的に上昇することが必要です。

停滞前線(梅雨前線など)
暖気と寒気がぶつかり合う境界で、暖気が寒気の上を這い上がることにより上昇気流が発生します。

局地的な前線や収束線
地上付近で風がぶつかり合う場所(風の収束)では、空気が行き場を失って上昇します。

地形(山岳)の影響
湿った空気が山にぶつかって強制的に上昇させられることで、積乱雲が発生・発達しやすくなります。特に、同じ場所に湿った空気が流れ込み続ける場合、地形の影響は顕著になります。

既存の積乱雲からの冷たい下降流(ガストフロント)
バックビルディングの直接的なトリガーとなるのがこれです。

発達した積乱雲から降り落ちる冷たい雨粒とともに、冷たい空気が地上に吹き出し、それが周囲の暖かく湿った空気と衝突することで、新たな上昇気流が生まれ、新しい積乱雲が次々に形成されます。

適度な鉛直シアー(高さ方向の風の変化)

下層と上層で風向や風速に適切な差があること(鉛直シアー)も重要です。

下層風と上層風の風向がほぼ同じ
線状に積乱雲が並ぶためには、積乱雲が上空の風に流される方向と、その風上側で新しい積乱雲が生成される位置関係が持続することが重要です。
一般的に、下層(地上付近)の風と上空(高度3km付近)の風向がほぼ同じで、上空に向かって風が強まっているような場合に、バックビルディングが起こりやすいとされています。

適度な風速の差
風速の差が大きすぎると、発生した積乱雲がすぐに流されてしまい、次々と発生する積乱雲が線状に組織化しにくくなります。
逆に、小さすぎると、冷たい下降流が新しい積乱雲の発生を効率的に促せず、積乱雲の「世代交代」がスムーズに行われません。

これらの条件が、特定の場所に数時間にわたって維持されることで、バックビルディング型の線状降水帯が発生し、甚大な豪雨災害をもたらすことになります。

特に日本の梅雨期や秋雨期に、南から湿った空気が流れ込み、前線や地形の影響を受ける場所で発生しやすい傾向があります。

備え・気をつけること

Anvil
かなとこ雲まで発達した積乱雲(最盛期~衰弱期)

”かなとこ(金床)”とは鍛造や板金作業を行う際、加工するものを載せて作業する台のこと。特に発達した積乱雲は、対流圏界面(航空機が飛んでいる高さ、地表から約1万m付近)まで達すると、それ以上は上昇できず水平に広がります。これを「かなとこ雲」と呼びます。こんな雲を見つけたら、要注意!

under Cb

【黒い雲が近づいてきた!】

積乱雲は背が高く分厚いため、太陽の光をさえぎります。このため積乱雲の底は真っ黒です。こんな雲が近づいてきたら要注意!

thunderstorm

【ゴロゴロ…雷の音が聞こえてきた!】

雷は必ずしも、高いところに落ちるとは限りません!雷雲の位置次第で、海面、平野、山岳などところを選ばずに落ちます。屋外にいる場合は、建物(鉄筋コンクリート建築)や、バスや電車などへ避難!

※屋内でも100%安全とは言えません。電気器具、天井、壁から1メートル以上離れるようにしましょう。

【急に冷たい風が吹いてきた!】

冷たい風は積乱雲から吹き出す下降気流です。あられ(直径5mm未満)や雹(ひょう)(直径5mm以上)が降ってくることも!大きな雹(ひょう)はゴルフボール大のものも報告されています。

「ひょう」と「あられ」のちがいは?

気象情報を正しく知り、前もって備えておくことで、気象災害から身を守りたいですね!

気象予報士試験に出る?

「バックビルディング(back building)」という用語自体は、近年の気象解説などでは頻繁に使われるようになっていますが、気象予報士試験の問題文中で直接使われることはほとんどありません。

ただし、試験ではこの現象の「中身」――つまり、

  • 積乱雲が同じ場所に次々と発生し続けて線状に並ぶこと
  • 冷気の広がりと暖湿気流の流れが釣り合って積乱雲が連続発生する仕組み

などが、図や現象説明として問われることがあります。

したがって、「バックビルディング」という言葉を知らなくても、そのメカニズムを理解しておくことがとても重要です

<参考資料>

気 象 研 究 所・(一財)気象業務支援センター・海洋研究開発機構・京都大学・北海道大学・寒地土木研究所 報道発 表(令 和 5 年 9 月 1 9 日)

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