
マルマンフィルターとニューラルネットワークを勉強しているのですが、もう何がなんやら・・・
ちんぷんかんぷんです!助けてください!

それは大変!ここでじっくり学んでいきましょう!
気象予報士試験の勉強の中で、数値予報の分野が苦手!という方はかなり多いのではないでしょうか?
私たちが日々目にする天気予報の裏側には、単なる経験則や感覚ではない、高度な科学技術が息づいています。特に近年、予報精度向上に大きく貢献しているのが、「カルマンフィルター」と「ニューラルネットワーク」という二つの強力な技術です。
観測データのノイズ処理から、複雑な気象パターンの解析、そして未来の現象の予測に至るまで、これらの技術は多岐にわたる役割を担っています。
この記事では、一見難しく思えるカルマンフィルターとニューラルネットワークの基本的な概念から、分かりやすく解説していきます。
※この記事は、当講座に在籍する気象予報士が監修しております。
そもそもカルマンフィルターとニューラルネットワークって何?

カルマンフィルターとニューラルネットワークはどちらも、それぞれのアルゴリズムに基づくコンピュータのプログラムのこと。
これら2つのプログラムが、数値予報で利用されているのです。
ではカルマンフィルターとニューラルネットワークは、数値予報のどの部分で利用されているのでしょうか?
数値予報のどこで使われるの?
まず、一般的な数値予報の解析サイクルは、大きく分けて以下のステップで構成されます。
- 観測: 地上、高層、衛星、レーダーなど、様々な観測データ。
- 客観解析(データ同化 ): 観測データと、前回の予報(第一推定値)を統合し、現在の最適な大気の状態を作成する。
- 初期化: 客観解析された大気の状態を、数値予報モデルの物理法則と整合するように微調整し、予報開始時の安定性を確保する。
- 数値予報モデル(予測): 物理法則(流体力学、熱力学など)に基づいて、大気の状態を将来へ向かって計算する。
- 後処理・ガイダンス: 数値予報モデルの生出力(グリッドデータ)を、利用しやすい形(地点ごとの予報、バイアス修正、極値予測など)に加工・修正する。
カルマンフィルターの位置付け

カルマンフィルターは主にデータ同化において、観測と予測を統合し、最適な初期値を推定(特に不確実性やバイアスを考慮)する強力な統計的ツール。
後処理でもバイアス修正に利用します。
カルマンフィルターは、主に以下の2つの段階で重要な役割を担います。
客観解析(データ同化)の中核技術
最も重要な位置付けは、このデータ同化の段階です。
特にアンサンブルカルマンフィルターなどの発展形は、現在の最新のデータ同化手法の一つとして、多くの気象機関で研究・実用化が進められています。
役割
観測データと第一推定値(予測)の不確実性(誤差)を考慮しながら、最適な「現在の状態(分析値)」を推定します。
これにより、観測誤差やモデルの誤差を効果的に扱いつつ、予報の初期値をより正確に決定します。「バイアス修正」の機能も、このデータ同化の枠組みの中で行われます。
後処理・ガイダンス でのバイアス修正
数値予報モデルの出力には、モデルの特性による系統的な「バイアス(偏り)」が存在します。
役割
カルマンフィルターは、過去のモデル予報値と実際の観測値(実績値)との比較を通じて、このバイアスを自動的に学習し、将来の予報値を補正するために使われます。
これにより、数値予報モデルの生出力を、より正確で使いやすいガイダンス(例:地点ごとの最高気温予測など)に変換します。
ニューラルネットワークの位置付け

ニューラルネットワークは、主に後処理・ガイダンスにおいて、過去のデータから複雑なパターンを学習し、予測の精度向上や多様な情報生成を行います。
ニューラルネットワークを含む機械学習(AI)技術は、近年急速に気象分野での応用が進んでおり、その位置付けは進化しつつありますが、現状では主に以下の段階で活用されています。
後処理・ガイダンス での応用
最も広く実用化されているのはこの段階です。
バイアス修正
カルマンフィルターと同様に、モデルの出力バイアスを修正するために使われます。
複雑な非線形な関係を学習できる点で、従来の統計手法よりも優れた性能を発揮することがあります。
ダウンスケーリング
広域のモデル出力から、局地的な高解像度の予報(例:都市部の詳細な気温や降水量)を生成する。
極値予測・異常気象の識別
過去のデータから、特定の気象条件(例:線状降水帯の発生、突風の可能性など)と、それに伴う極端な現象のパターンを学習し、その発生確率や強度を予測します。
ナウキャスト
数時間先までの非常に短い時間の予報(雨の動き、雷の発生など)に、レーダーや衛星画像といった観測データから直接パターンを学習して予測します。
データ同化での補助的な応用
観測データの品質管理(エラーの自動検出)や、複雑な観測(衛星データなど)のモデル変数への変換(観測演算子の代替)など、一部のプロセスで研究・応用が進んでいます。
どちらも、天気予報モデルの「心臓部(物理計算)」を直接動かすというよりは、その「前後でデータをより賢く処理・活用する」ことで、予報全体の精度と信頼性を高めるために不可欠な存在になっています。
カルマンフィルターについてもっと詳しく!

カルマンフィルターは、「予測」と「観測」という2つの情報源を、それぞれの信頼度に応じて賢く組み合わせることで、常に最も正確な「真の状態」を推定し、必要に応じて予測の「偏り」を自動で修正し続ける、非常に賢いコンピュータのプログラムのことです。
カルマンフィルター:どんなタイプのプログラム?
カルマンフィルターは、見えないものを賢く追いかける「予測修正名人」です。
カルマンフィルターは、一言で言うと「不確かな情報が入り混じる中で、今、本当に何が起こっているのか?そして次にどうなるのか?を一番正確に推測し続けるための、賢い計算方法」です。
まるで、目隠しをして動き回る動物の正確な位置を、聞こえる音と少しの予測で常に把握しようとする、そんな「予測修正名人」のようなものです。
カルマンフィルター:仕組み
カルマンフィルターは、2つの情報を賢く使っています。
このプログラムの考え方は、非常にシンプルで強力な「哲学」に基づいています。
それは、「予測」と「観測」という、性質の異なる2つの情報を、それぞれの『信頼度』に応じて賢く組み合わせる、ということです。
例え話で考えてみましょう。あなたは、部屋の中を動いている「見えない猫」の位置を知りたいとします。
A. 予測(「猫の動きモデル」による推測)
- あなたは、猫がだいたいどんな風に動くか知っています(例:まっすぐ進むことが多い、たまに方向転換する)。
- 今の猫の位置と速度が分かれば、「このままいけば次の瞬間、猫はここにいるはずだ」と予測できますよね。
- これが、カルマンフィルターで言うところの「予測ステップ」です。
- ただし、猫は予測通りには動かないこともあります(突然跳ねる、止まるなど)。だから、この予測には「不確かさ(予測誤差)」が伴います。
B. 観測(「足音」や「物音」による情報)
- 猫の姿は見えませんが、足音や、何かを倒した音で「あ、今あそこら辺にいるな」と察知することができます。
- これが、カルマンフィルターで言うところの「観測ステップ」です。
- しかし、音にも不確かさがあります(音が響いて正確な位置が分かりにくい、他の音と混じるなど)。だから、この観測にも「不確かさ(観測誤差)」が伴います。
カルマンフィルター:どうやって計算しているか
カルマンフィルターは、予測と観測を「融合」させています。
この「予測」と「観測」の2つの情報が出てきたときに、どちらかを一方的に信じるのではなく、それぞれの「不確かさ(誤差の大きさ)」を数値で評価し、より不確かな方から、より確かな方へ「少しずつ修正」する、ということを繰り返します。
「猫はたぶんあそこにいるだろう」と予測します。
「カリカリ…」と音がした。「あ、思ったより右の方にいたぞ」と観測します。
カルマンフィルターは考えます。「私の予測はどれくらいズレる可能性があるかな?」「この足音の観測はどれくらい正確かな?」
もし足音(観測)がかなり正確そうなら、予測した位置を足音の聞こえた位置に大きく修正します。
もし予測はかなり自信があるが、足音(観測)はかなり曖昧なら、予測した位置を足音の聞こえた位置に少しだけ修正します。
この修正具合を「カルマンゲイン」という賢い係数が自動的に計算してくれます。
修正された「今の猫の最も確からしい位置」を元に、また次の瞬間の猫の位置を予測します。
これを、時間の経過とともにリアルタイムでずっと繰り返し行うのです。
カルマンフィルターのすごいところ(長所)
- リアルタイムで最適に推定できる: 常に最新の情報を元に、その瞬間の「真の値」を最も正確に推定し続けます。
- 不確かさの中でも強い: 観測にノイズが多かったり、予測が完璧でなかったりしても、それぞれの不確かさを考慮して、賢く情報を統合します。
- バイアス(偏り)を自動修正できる: これが特に重要です。もし、あなたの「猫の動きモデル」が「猫はいつも予測より少しだけ右にズレる」という癖(バイアス)を持っていると、カルマンフィルターはそれを足音(観測)との比較から「学習」し、次回から自動的に予測を少し左にずらして修正してくれるようになります。これにより、長期的に見ても予報の精度がどんどん上がっていきます。
- 過去のデータが不要: 過去の全てのデータを記憶しておく必要がなく、前のステップの推定結果と現在の観測値だけで次の推定ができるため、計算効率が良いです。
どんなところで使われている?
カルマンフィルターは、非常に多くの分野で使われています。
- カーナビのGPS: 衛星からの信号が不安定な場所でも、車の動きのモデル(予測)と組み合わせて、最も正確な現在地を推定し続けます。
- 航空機の航法: 飛行機の位置や速度を正確に推定し、自動操縦などに使われます。
- ロボットの制御: ロボットが自分の位置や周りの物体の位置を正確に把握し、スムーズに動くために使われます。
- 株価予測: 曖昧な市場データから、株価の真のトレンドを推定するのに使われることもあります。
- 天気予報(データ同化、ガイダンス):
- 数値予報モデル(物理法則に基づいた複雑な予測)が「明日何℃になる」と予測します。
- しかし、数値予報にはモデルの癖(バイアス)や誤差があります。
- カルマンフィルターは、過去の数値予報と実際の観測データ(気温など)を比較し、「このモデルはいつもこれくらい高めに出るな」といったバイアスを自動的に学習・修正します。
- これにより、数値予報の値をただ出すだけでなく、より観測に近い、信頼性の高い予報値に「調整」してガイダンスとして提供するわけです。
カルマンフィルターは、「予測」と「観測」という2つの情報源を、それぞれの信頼度に応じて賢く組み合わせることで、常に最も正確な「真の状態」を推定し、必要に応じて予測の「偏り」を自動で修正し続ける、非常に賢い計算方法です。
ニューラルネットワークについてもっと詳しく!

ニューラルネットワークは、大量の「例」を与えられ、そこから自分で「パターン」や「法則」を学習し、それを使って新しい情報に対して「判断」や「予測」を行う、まるで経験から学ぶ脳のような計算システムです。
ニューラルネットワーク:どんなタイプのプログラム?
ニューラルネットワークは、経験から学ぶ「パターン認識の達人」のようなプログラムです。
一言で言うと「大量の例(経験)から、自分自身で法則やパターンを見つけ出し、それを使って何かを判断したり予測したりするための、柔軟な計算システム」。
まるで、まだ何も知らない赤ちゃんが、たくさんの動物の絵や音を見たり聞いたりするうちに、「これは猫だ」「これは犬だ」と区別できるようになる、そんな「経験から学ぶ達人」のようなものです。
ニューラルネットワークの仕組み
このプログラムは、脳の神経細胞を真似た構造です。
「ニューラルネットワーク」という名前の通り、人間の脳にある神経細胞(ニューロン)とそのつながりを、ごく単純化して模倣したものです。
脳の神経細胞は、他の細胞からの信号を受け取り、一定の条件を満たすと次の細胞へ信号を送ります。これを真似て、ニューラルネットワークもいくつかの「層」に分かれた「ユニット(=人工ニューロン)」が、複雑に接続し合ってできています。
センサーやデータなど、情報を受け取る入り口です。
例:画像のピクセル値、音声の周波数、天気予報の各種データなど。
入力された情報が、複雑に処理され、パターンが抽出される場所です。
各ユニットは、前の層からの情報を受け取り、それぞれが持つ「重み(重要度)」や「活性化関数(信号の変換ルール)」に基づいて計算し、次の層へ結果を送ります。
この層が多ければ多いほど、「深い(Deep)」ニューラルネットワーク(深層学習)と呼ばれ、より複雑なパターンを学習できます。
処理された結果(最終的な判断や予測)が出力される場所です。
例:「この画像は猫」「明日の気温は25℃」「この株は上がる」など。
ニューラルネットワーク:どうやって計算しているか
ニューラルネットワークは、経験による「重みの調整」をしています。
最大のポイントは、「学習」によってその能力を獲得する点です。
人間が細かいルールを教え込むのではなく、「大量の正解データ」を見せることで、自動的に賢くなっていきます。
例え:猫と犬の分類を学習させる場合
- 例えば「これは猫の画像です」というデータ(入力)と、「猫」という正解(出力)のペアを何千、何万と用意します。
- 例えば「これは犬の画像です」というデータ(入力)と、「犬」という正解(出力)のペアも同様に用意します。
- ニューラルネットワークに猫の画像を「入力」として見せます。最初はランダムな「重み」なので、適当な答え(例えば「これは犬」)を出力します。
- その出力と「正解(猫)」との間に「ズレ(誤差)」があることをコンピュータが認識します。
- その誤差が小さくなるように、ネットワーク内のすべての接続の「重み」を少しずつ調整します。まるで、脳の中で新しい情報から神経のつながりが少しずつ強化されたり弱まったりするようなものです。
- このプロセスを、用意した何千、何万ものデータに対して、何度も何度も繰り返します。
- 十分な学習を繰り返すと、ニューラルネットワークは、猫と犬の画像が持つ「目に見えないパターンや特徴」を自分自身で効率的に見つけ出し、最適な「重み」の組み合わせを獲得します。
- その結果、学習時には見せていなかった新しい猫の画像を見たときでも、正しく「猫だ」と識別できるようになるわけです。
ニューラルネットワークのすごいところ(長所)
- 複雑なパターン認識: 人間が明示的なルールを定義できないような、複雑で非線形な関係性(例:画像や音声の微妙な違い)をデータから自動で学習できます。
- 汎用性: 画像認識、音声認識、自然言語処理、推薦システム、そして天気予報など、多岐にわたる分野に応用できます。
- 大量データとの相性: データが多ければ多いほど、学習能力が高まり、精度が向上する傾向があります。
どんなところで使われている?
- 天気予報:
- 降水ナウキャスト: 数分から数十分先の雨の動きや強さを、過去のレーダー画像から学習して予測。
- バイアス修正: 数値予報モデルの出力の癖(バイアス)を学習し、より正確な予報に補正。
- 気象現象の識別・予測: 過去の気象データから、特定の強雨域や突風の発生パターンを学習して予測。
- (研究段階)次世代の数値予報モデル: 物理法則の計算の一部を代替したり、データ同化と予報モデルを統合したAIモデルそのものとしての研究も進んでいます。
- 画像認識: スマートフォンの顔認証、自動運転車の物体認識、医療画像診断など。
- 音声認識: SiriやAlexaのようなAIアシスタント、音声入力など。
- 自然言語処理: 自動翻訳、文章の要約、チャットボットなど。
- レコメンデーション(推薦システム): YouTubeやNetflixの「あなたへのおすすめ」、ECサイトの商品推薦など。
まとめると、ニューラルネットワークは、大量の「例」を与えられ、そこから自分で「パターン」や「法則」を学習し、それを使って新しい情報に対して「判断」や「予測」を行う、まるで経験から学ぶ脳のような計算システムです。
まとめ
最後に、カルマンフィルターとニューラルネットワークの違いを表にまとめました。
特徴 | カルマンフィルター | ニューラルネットワーク |
目的 | 不確実な状況での最適推定・追跡・バイアス修正 | 複雑なパターン学習・認識・予測 (ルールなしで) |
学習方法 | 予測と観測の誤差に基づき、統計的に誤差(バイアス含む)を補正 | 大量データと正解ペアから、重み付けを最適化して学習 |
得意なこと | リアルタイムでの状態推定、時系列データの追跡、予測値の自動補正 | 画像・音声・言語などの複雑なパターン認識、非線形な予測 |
イメージ | 見えないものを賢く追いかける「予測修正名人」 | 経験から学ぶ「パターン認識の達人」 |

今まで、参考書を読んでも何が何だかわからなかったところ、スッキリしたと思います。
何度も読んで、自分のノートに自分なりにまとめるのが大事ですよ!
「気象予報士の資格は取りたいけど、どのように勉強すれば良いのかわからない」
「テキストを買ってみたけれど、わからないことだらけ…」
「一人で受験勉強をする自信がない」
などなど、一人で悩んでいませんか?
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