空はなぜ青いのでしょうか?
そして、夕焼けはなぜ赤く染まるのでしょう?
これらの美しい自然現象の裏には、実はレイリー散乱という光の不思議な振る舞いが隠されています。
私たちの身の回りには、光が物質にぶつかって様々な方向に散らばる「散乱」という現象があふれています。

ここでは、私たちの日常に深く関わるレイリー散乱の仕組みを、わかりやすく解説していきます。
※この記事は、当講座に在籍する気象予報士が監修しております。
レイリー散乱の原理をわかりやすく!
レイリー散乱とは、空気中の小さな粒(酸素や窒素などの分子)によって光が散らばる現象のこと。
光の波長(目に見える光の場合、約400nm~700nm)よりもはるかに小さい粒子(例えば、光の波長の10分の1以下)によって起こります。

光の波長よりもはるかに小さい粒子とは・・・例えば次のような粒子です。
- 窒素分子
- 酸素分子
レイリー散乱の散乱の仕方は、波長の短い光(青や紫)ほど、強く散乱され、散乱の強さは、波長の4乗に反比例するという特徴があります。
ちなみに、青い光は赤い光の約9倍も強く散乱されるんです。
また、特定の方向に強く散乱されるのではなく、ある程度均等に散らばりるという、全方向に均等に散乱される傾向があります。
レイリー散乱における散乱の強さ(散乱強度)は、電磁波の波長の4乗に反比例します。
例えば、波長が2とすると、散乱の強さは16分の1。
つまり、波長が長くなればなるほど、散乱の強さは弱くなるのです。


短波長は粒子にぶつかりやすく、長波長より約6倍も強く散乱されてしまいます。そのため、空が青く見えるのです。
一方、朝夕は可視光線が斜めの方向から入射し、大気中を進む距離が長くなります。このため、短波長は先に散乱してしまい、長波長が最後まで残るのです。
レイリー散乱による身近な現象
レイリー散乱による身近な現象といえば、昼間の空が青く見えて、夕方に夕焼けが見られることでしょう。
ではそれぞれについて、もう少し詳しくお話ししますね。
空が青く見えるのは、太陽の光が大気中の小さな分子に当たると、波長の短い青い光が強く散乱され、それが私たちの目に届くためです。
夕焼け空が赤く見えるのは、夕方になると、太陽の光が空気中を長い距離進むため、散乱されやすい青い光は途中でほとんど散乱し尽くしてしまい、散乱されにくい赤い光だけが私たちの目に届くためです。
ミー散乱とは?
ミー散乱は、レイリー散乱よりも大きな粒(ちり・ほこり・水滴など)によって光が散らばる現象のこと。
ミー散乱は、光の波長と同じくらいか、それよりも大きい粒子によって起こります。
例えば、雲や霧を構成する水滴、花粉、粉塵、煙の粒子など(これらは光の波長と同程度か、それよりも大きいです)によって、光が散乱される場合、ミー散乱といえます。
散乱の仕方はレイリー散乱と異なり、特定の波長の光だけが強く散乱されるというよりは、すべての波長の光がほぼ均等に散乱されます。
そのため、散乱された光は白っぽく見えます。(波長依存性が低い。)
また、光が当たった粒子の前方に強く散乱される傾向があります。(前方への指向性が強い。)
ミー散乱による身近な現象
ミー散乱による身近な現象といえば、雲や霧を構成する水滴や氷の粒が、太陽光の様々な波長を均等に散乱させるため、全体として白く見えることでしょう。
また、一般に天使のはしごと呼ばれるチンダル現象も、ミー散乱です。
牛乳やデンプンを溶かした水(コロイド溶液)に光を当てると、光の筋が見える現象ですね。
これは、溶液中の粒子(光の波長と同程度の大きさ)が光をミー散乱させるためです。
他には、車のヘッドライトが霧の中でぼやけるのも、ミー散乱によります。
霧の粒子がヘッドライトの光をミー散乱させるため、光が広がり、遠くまで見えにくくなるのですね。。
レイリー散乱とミー散乱の違い
レイリー散乱とミー散乱は、どちらも「光が粒子に当たって散らばる現象」ですが、その違いは主に光を散乱させる粒子の大きさと、それに伴う散乱の仕方にあります。
例を挙げながら、それぞれの特徴を見ていきましょう。
特徴 | レイリー散乱 | ミー散乱 |
---|---|---|
散乱体の大きさ | 光の波長よりはるかに小さい | 光の波長と同程度か、それより大きい |
波長依存性 | 波長の短い光(青や紫)ほど強く散乱 | 波長依存性が低い(均等に散乱) |
散乱色 | 青、紫、赤など(波長によって変化) | 白っぽく見える |
身近な例 | 青い空、赤い夕焼け、光ファイバーの減衰 | 白い雲、霧、煙、チンダル現象 |
このように、光を散乱させる粒子の大きさによって、光の散らばり方が異なり、その結果、私たちが目にする現象も大きく変わってくるんですね。
レイリー散乱の歴史
レイリー散乱の発見の歴史は、19世紀後半のイギリスにさかのぼります。
この重要な現象を理論的に解明し、その名を冠することになったのは、イギリスの物理学者、ジョン・ウィリアム・ストラット(第3代レイリー男爵、通称レイリー卿)です。
レイリー卿の貢献
レイリー卿は、特に音響学や光学、電磁気学に貢献し、広範な物理学の分野で業績を残した人物です。
彼の研究は、まさにこの「空の青さ」の謎に迫るものでした。
彼は、1871年に発表した一連の論文の中で、光の波長よりもはるかに小さな粒子による光の散乱について、理論的な解析を行いました。
(補足)光・電磁波とは
光とは電磁波(電波)という波の一種です。
電磁波を簡単に説明すると、電気と磁気のエネルギーが波となって空間を伝わっていくものです。
例えば、電子レンジもこの電磁波の一つ、マイクロ波を利用したもの。食品に含まれている水分(水分子)にマイクロ波を当てて、振動させることで、加熱しています。レントゲン写真も、電磁波の一つエックス線を利用。電磁波って、日々お世話になっていますよね。


そして、人間の眼が感じられる、電磁波の波長の範囲は390nm(0.39μm)~770nm(0.77μm)で、これを可視光線と呼んでいます。
太陽光線(電磁波)の波長帯の47%は、この可視光線(可視光帯域)。
残りは赤外線(赤外帯域)と紫外線(紫外帯域)です。
日中に空が青く見え、夕方は赤く見える現象は、この可視光線が大気を構成する粒子によって、散乱されるからです。
※散乱…電磁波の進行の行く手にある粒子(原子や分子など)に当たり、周囲に広がる二次的な電磁波が生じる現象
ここまで地上から空を見てきましたが、宇宙から地球を見たら空はどんな風に見えるのでしょうか?

「空は非常に暗かった。 一方、地球は青みがかっていた」
ロシアの宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンの有名な言葉です。やっぱり青い!地表面の約7割を占める海も、レイリー散乱と赤い光(長波長)の吸収により、青く見えています。
上記は令和6年5月12日 12:00(日本時間)、気象衛星ひまわり8号が撮影した画像です。国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の「ひまわりリアルタイムWeb」より、いつでも閲覧することができます!
ひまわり8号は平成26年10月7日に打ち上げられ、平成27年7月7日から「ひまわり7号」に代わり正式運用を開始された静止気象衛星です。赤道上空の軌道上で、地球と同じ自転周期で飛んでおり、静止しているように見えるため、静止気象衛星と呼ばれます。
では、少し時間を巻き戻して、5月12日 00:00(日本時間)の画像。日本列島のはるか東、北米大陸が明るく、昼間であることがわかります。この画像を拡大(右)してみると…


この青く光っているのが、大気圏です。厚さは定義によって異なりますが約100km程度。宇宙からみると薄いベールのように見えますが、このベールが宇宙からやってくる有害な放射線から、私たちを守ってくれているのです。そう思うと、大気ってありがたいなぁと思いますよね。
レイリー散乱を用いた気象観測
最後に「レイリー散乱」を用いた気象観測について、ご紹介します。このレイリー散乱を用いた気象観測をしているのが、気象レーダーです。
【気象レーダー観測のしくみ】
・アンテナを回転させながら電磁波(マイクロ波)を射出、半径数百kmの広範囲に存在する降水粒子(雨や雪の粒)を観測する
・降水粒子から後方散乱(反射)して戻ってくる、電磁波の時間から降水粒子までの距離を測る
・戻ってきた電磁波(レーダーエコー)の強さから降水粒子の強さを観測する

散乱の強さ(散乱強度)が、電磁波が入射してくる方向と同じ向きで強く、線に直角な方法で弱くなる性質を利用しています。

また、戻ってきた電波の周波数のずれ(ドップラー効果)を利用して、雨や雪の動き=降水域の風を観測することができます。
ドップラー効果の身近な例が救急車のサイレンです。音も波の性質を持っています。このため、聞いている人の前を通りすぎる時は高い音、遠ざかっていく時には低い音に聞こえると思います。このドップラー効果を利用し、雨雲が動いている方向を知ることができるのです。

気象レーダーは令和6年5月13日現在、全国に20か所設置され日本のほぼ全域をカバー。リアルタイムの「雨雲の動き(ナウキャスト)」のほか、降水短時間予報、降水ナウキャストのような予報の作成にも利用されています。
「ブルーモーメント」がみられる穏やかな朝。そんな日々に感謝しながら、空を見上げたいですね。

さいごに
みなさんは空の色をどのように思い浮かべますか?

日本語での「空色」という言葉は平安時代から使われている古い色名(伝統色)で、昼間の晴れた空の色を表しています。英語ではSky blue(スカイブルー)、Cerulean blue(セルリアンブルー)、中国語では天藍(ティエンラン)と言うそうです。色見本で再現すると…

少しずつ色が違います。“空の色”と言っても、住んでいる場所や気候、文化などの違いで様々な色名が生まれたのかも知れませんね。
次に空を見上げたとき、ここで読んだレイリー散乱とミー散乱について、思い出して気象の世界を楽しんでいただけたら幸いです。
【参考文献】
・「色の名前」 監修 近江源太郎、構成・文 ネイチャー・プロ編集室
・気象衛星センター | 静止気象衛星と極軌道気象衛星 (jma.go.jp)
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