物理量の輸送量(乱流フラックス)が高度によらず「ほぼ一定」とは⁈

受講生
受講生

大気境界層の勉強をしていたら「物理量の輸送量(乱流フラックス)は、高度によらず、ほぼ一定」とありました。

もう少し噛み砕いて教えてください!

デミー先生
デミー先生

接地層での乱流による物理量の輸送量(乱流フラックス)についてですね。

ではじっくり学びましょう!

気象予報士試験において、多くの受験生がつまずく概念の一つが、大気境界層の最下層である接地層で仮定される「乱流フラックス(乱流による物理量の輸送量)が鉛直方向にほぼ一定である」という性質です。

難しく感じる理由は、「物理量の輸送量」、「乱流フラックス」という言葉の難解さ、そして「一定」であることの物理的な意味がつかみにくいためです。

本記事では、この「一定」の意味を、熱と運動量の輸送メカニズムに焦点を当て、比喩と物理法則を使って徹底的に解説します。
これを理解すれば、境界層のグラフ問題は怖くありません!

※この記事は、当講座に在籍する気象予報士が監修しております。

1. まず確認!「接地層」と「乱流フラックス」の基本

A. 接地層とは?

  • 位置: 地表面から数十メートル(平均 10 m〜 50 m 程度)までの最も薄い大気境界層の最下層です。
  • 特徴: 地表面からの摩擦や熱の供給の影響を最も強く受けます。この層では風速や気温の鉛直勾配が非常に大きくなります。

B. 乱流フラックスとは?

  • 熱フラックス(顕熱・潜熱): 地表から空気へ運ばれる熱の量。
  • 運動量フラックス: 地表の摩擦が上空へ伝わり、風速を弱める作用の量。

乱流フラックスは、地表面と大気がエネルギー交換するペースを示すものです。

2. 核心解説!なぜ乱流フラックス(乱流による物理量の輸送量)は「一定」なのか?

接地層では、乱流によって「物理量の輸送量」は一定です。その物理量とは・・・

輸送される物理量とは?

輸送される主要な物理量は以下の通り。

  • 運動量
  • 熱(顕熱・潜熱)
  • 水蒸気

輸送される「運動量、熱(顕熱・潜熱)、水蒸気」について、もう少し詳しく説明します。

運動量

地表面との摩擦によって、上空の運動量(風速)が地表面に向かって下向きに輸送されます。これにより地表面付近の風速は弱まり、上空との間に大きな速度勾配が生じます。

  • 顕熱: 地表面と大気の温度差によって輸送されます。日中は地表面が加熱されるため、熱が上空へ輸送されます。
  • 潜熱: 地表面からの蒸発(または凝結)によって水蒸気が移動する際に伴う熱エネルギーです。特に水面や湿潤な土壌からは、大量の潜熱が水蒸気とともに上空へ輸送されます。

水蒸気

地表面からの蒸発により、水蒸気が上空へ輸送されます。

そのほか、大気汚染物質などの微量物質: 大気汚染物質やその他の化学物質も、接地層の乱流混合によって輸送・拡散されます。 

「輸送量が一定」とは?乱流を貨物列車に例えてみる

乱流を貨物列車だとイメージしてください。

要素貨物列車の比喩物理的な意味
列車自体乱流
(空気の不規則な運動)
熱や運動量を運ぶ媒体
積荷熱、水蒸気、運動量地表から供給されたエネルギー
運行区間接地層
(数十メートルの短い区間)
輸送が保守的だと仮定される層

なぜ「途中で荷物を落とさない」のか?

  1. 積荷の生成・散逸がない: 接地層は非常に薄いため、この短い区間で、積荷(熱や運動量)が途中で新たに生成されたり、大量に大気に貯蔵されたり(散逸)することが、ほとんどありません。
  2. 通過量が一定: したがって、地表(始発駅)から積み込まれた積荷の総量(フラックス)は、接地層内のどの地点(どの高度)に観測所を設けても、同じ量(列車が運ぶ積荷の総量)が通り過ぎていくと見なせます。

この「貨物列車」のイメージは、乱流フラックスが「輸送路の短さ」と「輸送速度の速さ」によって、輸送している総量が高度に対して保存されているという、接地層の最も重要な物理的仮定を理解するのに非常に役立ちます。

受講生
受講生

そうは言われても、接地層では混合比以外の要素(温度・温位・風速)が、ほぼ大きく変化しているし・・・

輸送量が一定というのがピンときません。

デミー先生
デミー先生

そうですね。

一見矛盾しているように思うのも無理はありません。

では次に、この矛盾しているように見える部分を説明しましょう。

3. なぜ矛盾が生じる?「輸送量一定」と「物理量急変」の壁

混乱の原因:物理量の変化とフラックス変化の混同

私たちが直感的に考えてしまうのは、次の誤解です。

しかし、接地層の実際の状態は逆です。

この矛盾を解消する鍵は、「輸送」と「勾配」の関係にあります。

鍵:輸送は「勾配」に依存する

乱流による輸送(フラックス F )は、その物理量の「鉛直勾配(変化の傾き)」と「混合の効率(乱流の強さ)」に比例します。

たとえば、「風速」で考えます。

  • 接地層の上空: 風速は速いですが、地表から離れているため摩擦の影響は弱く、風速の勾配も緩やかです。
  • 接地層の地表付近: 風速は遅いですが、地表に非常に近いため摩擦の影響は強く、風速の勾配は非常に急です。

接地層内でフラックスを一定に保つためには、以下のバランスが成り立たなければなりません。

場所乱流フラックス
(輸送量)
乱流の強さ風速の勾配(傾き)
接地層上部一定比較的強い緩やか
(あまり変化しない)
地表付近一定非常に弱い非常に急(大きく変化)

もし物理量が「熱量」であれば・・・

接地層の上部:熱量の勾配が緩やか(変化が緩やか)→気温減率は下層より小さい

地表付近:熱量の勾配が急(変化が激しい)→気温減率が大きい

ということになります。

貨物列車(乱流)の例で再確認

地表付近(弱い乱流): 荷物(運動量)を運ぶ列車の本数(乱流の強さ)が少ないため、風速の差(勾配)を非常に大きくして、少ない本数でも総量(フラックス)が一定になるように調整されています。

デミー先生
デミー先生

列車の本数が少ないけれど、同じ量の荷物を運ぶためにたくさん積む・・・みたいなイメージです。

接地層上部(強い乱流): 列車の本数が多い(乱流が強い)ため、風速の差(勾配)が小さくても、総量(フラックス)を一定に保つことができます。

デミー先生
デミー先生

列車の本数が多いので、同じ量の荷物を運ぶために少しずつ積む・・・みたいなイメージです。

つまり、乱流(混合の効率)が弱い場所ほど、物理量は急激に変化しなければならないことで、輸送量(フラックス)が一定に保たれているのです。

まとめ

接地層での「乱流フラックス(乱流による物理量の輸送量)が一定」というのは、学習していてたびたび見る鉛直断面のグラフとイメージが違ってわかりにくいですよね。

「物理量」とか「輸送量」という表現も、わかりにくさを手伝っていると思います。

でも結局は、地上付近で乱流の強さが弱いのは、地上面摩擦のせいです。

そして、「乱流フラックス(乱流による物理量の輸送量)が一定」というのは、地表面摩擦と、物理量の変化がバランスをとれている結果なのです。

接地層の上にある混合層では、地表面から離れるため、徐々にこのバランスが取れなくなり、乱流フラックスは「一定」から「減少」に転じます。

今回は、地上に住む私たちに最も身近である接地層での、とてもややこしい「乱流フラックス(乱流による物理量の輸送量)が一定」について学びました。

気象予報士試験でも、何度も出題されている内容なので、しっかり理解しておきましょう!

デミー先生
デミー先生

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