空から差し込む光の帯「天使のはしご」。みなさんも、きっと一度は見たことがあるのではないでしょうか。ドラマ「ブルーモーメント」でも、姉妹をつなぐ思い出のシーンで登場しています。今回はこの「天使のはしご」について、実験つきでご紹介します!

天使のはしご
天使のはしご

「天使のはしご」はどんな現象?

幻想的な空をもたらす「天使のはしご」。空から差し込む光の帯は、確かに神々しいように感じます。この名称は旧約聖書に由来し、天使が梯子(はしご)を昇り降りしている様子から名づけられたそうです。

この現象の正体は「薄明光線(はくめいこうせん)」や「光芒(こうぼう)」と呼ばれる、光の筋です。大気中のエーロゾル(エアロゾル)が太陽光線(電磁波)を「ミー散乱」し、光の経路が見えるようになる「チンダル現象」で生まれます。

…と、「はて?」となっている読者の方も多いかと思いますので、太字部分の意味をじっくりみていきましょう。

・エーロゾル(エアロゾル)

大気中に浮遊する固体・液体の極めて小さな微粒子で、簡単に言うとチリやほこりのこと。土壌粒子や人間活動による排出粒子(粉塵)、海由来の海塩粒子などサイズも様々です。このエーロゾルがきっかけで雲ができます。雲のできかたはこちら

・ミー散乱

青空や夕焼けのしくみは「レイリー散乱」でしたよね。「レイリー散乱」では、電磁波の波長がぶつかる粒子の半径より非常に大きい(10倍以上)の場合に生じる散乱です。

では、「ミー散乱は?」と言うと、電磁波の波長と散乱を起こす粒子の半径が同程度の場合に起きる散乱です。

ミー散乱
ミー散乱

しかしながら、電磁波=太陽光線は同じはずなのに、なぜ「レイリー散乱」のように色づいていないのでしょうか?

その理由は、散乱を起こす粒子のサイズの違いです。大気中で「レイリー散乱」を起こすのは、大気中の窒素や酸素の原子や分子、微粒子など。散乱強度は波長に依存するので、短い波長(青や紫)ほど散乱が強くなります。

「ミー散乱」を起こすのは、大気中のエーロゾルや雲粒で窒素。これらの粒子の半径は太陽光線に含まれる、可視光線帯域の波長とほぼ同じ。このため、どの色も同じように散乱します。つまり、ミー散乱の散乱強度は波長の長さに依存しないのです。

太陽の可視光がすべて混ざった色が、黄白色です。具体例をあげると…

三角プリズム
三角プリズム

三角プリズムに入射する前の光(可視光線)はほぼ白、分光した後は虹色になっています。可視光線のミー散乱が起きると、太陽の色に近い白や薄い黄色となるのです。

空気がかすんで白っぽく見えるのは大気中のエーロゾルによるミー散乱、雲が白く見えるのは雲粒によるものです。

そして、「チンダル現象」については、実験でみていきましょう。

「天使のはしご」をつくってみよう!

では、実際に「天使のはしご」をモデル実験でつくってみたいと思います!

用意するもの

【用意するもの】

・空のペットボトル容器(角型、転がらないもの)

※今回は見やすいよう2Lを使用しています。

・水道水 2L

・牛乳 少量

・計量スプーン

・スマートホンなど強い光がでる光源

・黒い厚紙(ペットボトルと同サイズ程度)

※なくても可ですが、ペットボトルの裏に固定すると光線が見やすくなります)

★安全な室内でテーブルの上で行いましょう。

★器材をセットしたら、電気を消すと観察しやすいです。

1)ペットボトルに水を入れ、しっかりキャップを閉めたら、横に置きます。そしてボトルの底面側からスマートホンで光を当てると…

1)水のみの状態
1)水のみの状態

ペットボトル内の水(水分子)に光が乱反射していますが、光の筋は見えません。

2)次に牛乳を少しだけ入れてみます。2.5cc計量スプーンの半分程度(約1.3cc)の牛乳を入れてみると…

少し白く濁りましたが、まだ光の筋は見えません。さらに牛乳を追加してみましょう。

3)先ほどと同量の牛乳を加えて、約2.5ccになりました。すると…

3)牛乳 約2.5ccの状態
3)牛乳 約2.5ccの状態

光の筋がはっきり見えました!これが「チンダル現象」です。では、さらに牛乳を追加するとどうなるでしょうか?

4)牛乳をさらに約2.5ccを加え、約5ccになりました。

4)牛乳 約5ccの状態
4)牛乳 約5ccの状態

まだ光の筋は見えていますが、濁りが多く、見辛くなりました。※牛乳の成分やペットボトルの形状によっても、異なります。

では、なぜこのような現象が起きたのか、ひも解いていきましょう。

まず、光源=太陽の可視光線が必要ですよね。これがスマートホンのライトです。

そして、散乱させる粒子=牛乳が不可欠です。牛乳の成分は主にタンパク質と脂肪(脂肪球)でできています。この脂肪球とタンパク質のサイズは大きく違い、脂肪球の方が非常に大きいのです。この脂肪球がエーロゾルと同じ役目を果たし、ミー散乱を起こしているのです。

ところで、ペットボトルの底からキャップ方向に向かって、光の色が変化しているのにお気づきでしょうか?

ペットボトル内の色の変化
ペットボトル内の色の変化(牛乳 約5ccの状態)

底部から入射した光は青白く、だんだん黄色からオレンジ色に変化していきます。これは牛乳のタンパク質の非常に小さな粒子が、「レイリー散乱」を起こしているのです。長い波長である赤ほど遠くまで届き、キャップを赤く染めたのですね。

次に、牛乳の量による色の変化をみてみましょう。

牛乳の量が一番多いときが、オレンジ色が濃くなっていますよね。これを大気に置き換えると、水蒸気の量が多い状態です。なので、湿度が低い秋冬の夕焼けはオレンジ色、夏の夕焼けは赤に近くなるのです。

夏の夕焼け
夏の夕焼け

そして、「チンダル現象」の光の筋をつくるのに欠かせないのが「雲」の存在です。もし雲がなかったら、どうなるでしょうか?

牛乳 約5ccの状態(懐中電灯)
牛乳 約5ccの状態(懐中電灯)

懐中電灯で照らしてみました。これが雲がない状態です。スマートホンの場合、光はスマートホン本体の一点から差し込みますが、この懐中電灯では光を遮るものがありません。このため、光の筋はほぼ現れなかったのです。 ※懐中電灯のタイプによって異なります。

「天使のはしご」に出会いやすい雲

最後に「天使のはしご」に出会うための、コツについてお伝えします。空に「天使のはしご」がかかるには、条件があります。

・厚みがあって、層状の雲が空に広がっていること

・雲と雲のすき間が空いていること

このため、高積雲(こうせきうん)層積雲(そうせきうん)で出会いやすいと言われています。では、この雲をご紹介しましょう。

高積雲:ひつじ雲とも呼ばれ、雲内の規則的な上昇気流と下降気流がうろこ状の形を生み出します。

層積雲:地表付近に弱い寒気が流入しているときに発生しやすく、梅雨期の関東から東北地方の太平洋側でもよく見られます。

今回は光の魔法「天使のはしご」についてお届けしました。「薄明光線(はくめいこうせん)」というように、薄明の時間帯(少し薄暗いけれど周りは見える時間帯、日の出前や日の入り後)には特に出会いやすいですが、日中の明るい時間帯で出会えることもあります。

全国どこでも見られる現象なので、梅雨の晴れ間にはぜひ探してみてくださいね!

天空へのびる反薄明光線(上部)と薄明光線(下部)
天空へのびる反薄明光線(上部)と薄明光線(下部)

天使のはしご

※気象予報士アカデミー受講生Keiさんからも天使のはしごの写真をいただきました

※ほかにもドラマ・漫画の「ブルーモーメント」に登場する気象現象をいろいろ紹介しています!

【参考文献】

・「世界でいちばん素敵な雲の教室」 著:荒木健太郎 三才ブックス

「光散乱を利用した牛乳の品質検査」 著:東洋大学 理工学部 応用化学科 勝亦 徹