空が青く見えるのはなぜだろう?夕焼けはどうして起きるのだろう?ーそう思ったことはありませんか?青く澄みわたる空、茜色(あかねいろ)に染まる空には理由があります。今回はその色のひみつ、「レイリー散乱(さんらん)」についてお届けします!

世界の空の色

みなさんは空の色をどのように思い浮かべますか?

日本語での「空色」という言葉は平安時代から使われている古い色名(伝統色)で、昼間の晴れた空の色を表しています。英語ではSky blue(スカイブルー)、Cerulean blue(セルリアンブルー)、中国語では天藍(ティエンラン)と言うそうです。色見本で再現すると…

空の色カラーパレット
空の色カラーパレット

少しずつ色が違います。“空の色”と言っても、住んでいる場所や気候、文化などの違いで様々な色名が生まれたのかも知れませんね。この空の色を作り出すのが「レイリー散乱」です。

空の色のひみつーレイリー散乱とは?

「ブルーモーメントとは 発生時間帯や気象条件、仕組みなどを予報士が解説!」で、光の散乱についてご紹介しました。では、この「光の散乱」について、もう少し詳しくみていきましょう。

「レイリー散乱…はて?」という方が多いかと思いますが、光の散乱の一つなのです。気象予報士を目指す方は必ず覚えましょうね!

この「レイリー散乱」を発見したのは、19世紀の物理学者 レイリー卿(きょう)Lord Rayleigh(本名:ジョン・ウィリアム・ストラット John William Strutt)です。数学を駆使して物理現象を解明しました。

ところで、光とは何でしょうか?光とは電磁波(電波)という波の一種です。電磁波を簡単に説明すると、電気と磁気のエネルギーが波となって空間を伝わっていくものです。

例えば、電子レンジもこの電磁波の一つ、マイクロ波を利用したもの。食品に含まれている水分(水分子)にマイクロ波を当てて、振動させることで、加熱しています。レントゲン写真も、電磁波の一つエックス線を利用。電磁波って、日々お世話になっていますよね。

そして、人間の眼が感じられる、電磁波の波長の範囲は390nm(0.39μm)~770nm(0.77μm)で、これを可視光線と呼んでいます。

太陽光線(電磁波)の波長帯の47%は、この可視光線(可視光帯域)。残りは赤外線(赤外帯域)と紫外線(紫外帯域)です。日中に空が青く見え、夕方は赤く見える現象は、この可視光線が大気を構成する粒子によって、散乱されるからです。

※散乱…電磁波の進行の行く手にある粒子(原子や分子など)に当たり、周囲に広がる二次的な電磁波が生じる現象

太陽光線(電磁波)の波長が、散乱を起こす粒子の半径より非常に大きい(10倍以上)のときに、「レイリー散乱」が発生します。

レイリー散乱

この可視光線がぶつかる粒子は、大気中の窒素や酸素の原子や分子、微粒子などのこと。では、なぜ空の色の違いが生まれるのでしょうか?それが波長の長さによる違いです。

レイリー散乱における散乱の強さ(散乱強度)は、電磁波の波長の4乗に反比例します。例えば、波長が2とすると、散乱の強さは16分の1。つまり、波長が長くなればなるほど、散乱の強さは弱くなるのです。

ブルーモーメント
光の分光(スペクトル)

上図の左側が短波長(紫や青)、右側が長波長(オレンジや赤)です。これらの波長が粒子にぶつかると…

波長による違い
波長による違い

短波長は粒子にぶつかりやすく、長波長より約6倍も強く散乱されてしまいます。そのため、空が青く見えるのです。一方、朝夕は可視光線が斜めの方向から入射し、大気中を進む距離が長くなります。このため、短波長は先に散乱してしまい、長波長が最後まで残るのです。

このような理由で、空の色の違いが生まれるのですね。詳しい図解はこちら

ここまで地上から空を見てきましたが、宇宙から地球を見たら空はどんな風に見えるのでしょうか?

2024年5月12日 12:00(日本時間)
2024年5月12日 12:00(日本時間)出典:NICT ひまわりリアルタイムWeb

「空は非常に暗かった。 一方、地球は青みがかっていた」

ロシアの宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンの有名な言葉です。やっぱり青い!地表面の約7割を占める海も、レイリー散乱と赤い光(長波長)の吸収により、青く見えています。

上記は令和6年5月12日 12:00(日本時間)、気象衛星ひまわり8号が撮影した画像です。国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の「ひまわりリアルタイムWeb」より、いつでも閲覧することができます!

ひまわり8号は平成26年10月7日に打ち上げられ、平成27年7月7日から「ひまわり7号」に代わり正式運用を開始された静止気象衛星です。赤道上空の軌道上で、地球と同じ自転周期で飛んでおり、静止しているように見えるため、静止気象衛星と呼ばれます。

では、少し時間を巻き戻して、5月12日 00:00(日本時間)の画像。日本列島のはるか東、北米大陸が明るく、昼間であることがわかります。この画像を拡大(右)してみると…

この青く光っているのが、大気圏です。厚さは定義によって異なりますが約100km程度。宇宙からみると薄いベールのように見えますが、このベールが宇宙からやってくる有害な放射線から、私たちを守ってくれているのです。そう思うと、大気ってありがたいなぁと思いますよね。

レイリー散乱を用いた気象観測

最後に「レイリー散乱」を用いた気象観測について、ご紹介します。このレイリー散乱を用いた気象観測をしているのが、気象レーダーです。

【気象レーダー観測のしくみ】

・アンテナを回転させながら電磁波(マイクロ波)を射出、半径数百kmの広範囲に存在する降水粒子(雨や雪の粒)を観測する

・降水粒子から後方散乱(反射)して戻ってくる、電磁波の時間から降水粒子までの距離を測る

・戻ってきた電磁波(レーダーエコー)の強さから降水粒子の強さを観測する

気象レーダー観測のしくみ
気象レーダー観測のしくみ

散乱の強さ(散乱強度)が、電磁波が入射してくる方向と同じ向きで強く、線に直角な方法で弱くなる性質を利用しています。

レイリー散乱の放射強度と入射方向
レイリー散乱の放射強度と入射方向

また、戻ってきた電波の周波数のずれ(ドップラー効果)を利用して、雨や雪の動き=降水域の風を観測することができます。

ドップラー効果の身近な例が救急車のサイレンです。音も波の性質を持っています。このため、聞いている人の前を通りすぎる時は高い音、遠ざかっていく時には低い音に聞こえると思います。このドップラー効果を利用し、雨雲が動いている方向を知ることができるのです。

ドップラー効果
ドップラー効果

気象レーダーは令和6年5月13日現在、全国に20か所設置され日本のほぼ全域をカバー。リアルタイムの「雨雲の動き(ナウキャスト)」のほか、降水短時間予報、降水ナウキャストのような予報の作成にも利用されています。

気象レーダーの歴史については、ぜひこちらもご覧ください!

ブルーモーメント」がみられる穏やかな朝。そんな日々に感謝しながら、空を見上げたいですね。

機上からのブルーモーメント
機上からのブルーモーメント

※ほかにもドラマ・漫画の「ブルーモーメント」に登場する気象現象をいろいろ紹介しています!

【参考文献】

・「色の名前」 監修 近江源太郎、構成・文 ネイチャー・プロ編集室

気象衛星センター | 静止気象衛星と極軌道気象衛星 (jma.go.jp)

気象庁 気象レーダー