「バックビルディング現象」は「線状降水帯」のメカニズムの一つです。 でも、意外とそのしくみを知らない方も多いのではないでしょうか。もうすぐ梅雨を迎える、今だからこそ知っておきたい「バックビルディング現象」について迫ります!
目次
「バックビルディング現象」を引き起こす雲とは?
そもそも「雨雲」ってどんな雲?
「バックビルディング現象」の前に…そもそも雨雲とはどんな雲なのでしょうか?
「今日のお天気はどうかな?」「洗濯物は外干しOK?」
気象庁だけでなく、民間の気象会社からもお天気アプリ等によって、気象に関するさまざまなデータが日々配信されています。
「雨雲レーダー」を見れば、いつ頃、どの場所で、どの程度の雨が降るのか、おおよその見当をつけることもできますよね。
では、この「雨雲」ってどんな雲なのでしょうか?
雲は、できる高度と性状から国際雲分類表で代表的な十種類に分類されており、これを十種雲形といいます。このうち、まとまった雨(降水現象)を降らせるのが、「乱層雲(らんそううん)」と「積乱雲(せきらんうん)」です。
性状とは雲の性格のようなもの。
層状雲(そうじょううん)の代表「乱層雲」はしとしと雨、対流雲(たいりゅううん)の代表「積乱雲」は※ザーザー降りのような雨が特徴です。※雨の強さの表現は気象庁で定義されています。気象庁:雨の強さと降り方
この性格の違いをもたらすのが、雲のできかたの違いです。
左)対流性の雲の代表【積乱雲】 上昇気流の速さは1~10m/s。雲が発達する段階では強い上昇気流により、雨粒のもととなる水滴(降水粒子)がなかなか落下できません。雲内でどんどん成長し、上昇気流でも支えられなくなると、大きな雨粒となって落ちてきます。
右)層状性の雲の代表【乱層雲】 上昇気流の速さは数cm/s~十数cm/s。暖気が寒気の上をゆるやかに昇っていきます。上昇気流も弱いので、雨粒のもととなる水滴が大きくならずに落下してきます。
「積乱雲」について知ろう!
「今日は大気の状態が不安定なので、急な雷雨や突風にご注意ください」
よく天気予報で聞くワードですよね。この「大気の状態が不安定」というのが、積乱雲を発生・発達させる状態です。
では、どのような状態なのかと言うと…
暖かい空気は周囲の空気より軽いため上へ昇り(上昇気流)、冷たい空気は重いので、下へと降りようとする(下降気流)のため、対流が起きやすくなります。簡単にいうと、これが「大気の状態が不安定」という状態です。
実際の気象条件では、寒気が上空に入ったときのほか
・寒冷前線付近で寒気が暖気の下へ強制的にもぐりこむとき
・風が山岳にぶつかって上昇するところ(山岳の強制上昇)
・風が集まるところ(風の収束)
上記のような条件で地表付近の暖気が持ち上げられることで、今日の主役「積乱雲」が発生・発達するのです。
では、「積乱雲」が生まれてから、消えていくまで、どのような”雲生”を送っているのでしょうか。
【まだまだ成長するよ、元気いっぱい発達期】
・雲内のほとんどが上昇気流
・強い上昇気流により、雨粒が地上まで落下できない
・雲内は水滴と過冷却水滴(0℃を下回っても凍らない水)で構成
・雲の頂上(雲頂)の温度が-20℃を下回るころから、氷の結晶(氷晶)が多くなる
【バリバリはたらく最盛期】
・雲内で上昇気流と下降気流が共存
・雲頂の温度が-40℃以下となり、上部はほとんど氷晶に
・氷晶が成長した氷粒子が落下するが、強い上昇気流によって再び上昇
・大きく成長したあられや雹(ひょう)は、強い上昇気流を突き抜けて地上へ落下
・激しく下降する気流(下降気流)が、ときには竜巻のような突風を引き起こす
・強い雨(降水強度:20mm/h以上)となり、雹(ひょう)や落雷をともなう
【”雲生”をふりかえる衰弱期】
・雲内は上昇気流がほぼなくなり、下降気流が占める
・弱い層状性の雨をともなうことがあるが、長続きしない
一つの積乱雲(単一セル、雲の塊のこと)の寿命は30分~1時間程度。また水平方向の広がりは数km~十数kmで、局地的な範囲に限られます。
このため安全な場所で雷雨が過ぎ去るのを待てば、やり過ごせますね。
では、「バックビルディング現象」を引き起こす、積乱雲はどのような構造なのでしょうか?
積乱雲の高層ビル群「バックビルディング現象」
積乱雲が林立する様子から「バックビルディング現象」と呼ばれるこの現象は、「線状降水帯」のメカニズムの一つとされています。
※「線状降水帯」については、次号をお楽しみに!
「線状降水帯」とは
「次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)」が列をなし数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、長さ50~300km程度、幅20~50km程度の線状に伸びる強い降水域」と気象庁では定義されています。
出典:予報が難しい現象について (線状降水帯による大雨) | 気象庁 (jma.go.jp)
この「バックビルディング現象」を図解でまとめてみました。
このように雲の世代交代がくり返されることで、局所的な大雨=集中豪雨が長時間続いてしまうのです。線状降水帯は、現在の観測、予報技術では、まだ発生メカニズム等わかっていないことも多く、予報が難しい現象の一つです。
しかし、積乱雲が近づく前兆を事前に知っておくことは、気象災害から身を守ることにつながります。
「積乱雲」から身を守るには?~前兆を知ろう~
”かなとこ(金床)”とは鍛造や板金作業を行う際、加工するものを載せて作業する台のこと。特に発達した積乱雲は、対流圏界面(航空機が飛んでいる高さ、地表から約1万m付近)まで達すると、それ以上は上昇できず水平に広がります。これを「かなとこ雲」と呼びます。こんな雲を見つけたら、要注意!
【黒い雲が近づいてきた!】
積乱雲は背が高く分厚いため、太陽の光をさえぎります。このため積乱雲の底は真っ黒です。こんな雲が近づいてきたら要注意!
【ゴロゴロ…雷の音が聞こえてきた!】
雷は必ずしも、高いところに落ちるとは限りません!雷雲の位置次第で、海面、平野、山岳などところを選ばずに落ちます。屋外にいる場合は、建物(鉄筋コンクリート建築)や、バスや電車などへ避難!
※屋内でも100%安全とは言えません。電気器具、天井、壁から1メートル以上離れるようにしましょう。
【急に冷たい風が吹いてきた!】
冷たい風は積乱雲から吹き出す下降気流です。あられ(直径5mm未満)や雹(ひょう)(直径5mm以上)が降ってくることも!大きな雹(ひょう)はゴルフボール大のものも報告されています。
ドラマ「ブルーモーメント」では、「天気予報は命を守るためにある」と描かれますが、その情報はみなさん自身が活用しなければ意味がありません。
気象情報を正しく知り、前もって備えておくことで、気象災害から身を守りたいですね!