ーここでわかることー
▶︎「天使のはしご(チンダル現象)」はどんな現象か
▶︎原理・そのしくみ
▶︎「天使のはしご」の作り方(実験方法)
▶︎「天使のはしご」の見つけ方(よく見られる雲の種類)
ふと空を見上げたとき、厚い雲の切れ間から、まるで天から降り注ぐ光の階段のように、まばゆい光の筋が地上へと伸びているのを見たことはありませんか?
その神々しいまでの光景は、「天使のはしご」と呼ばれ、私たちに希望や感動を与えてくれます。
しかし、この神秘的な現象がなぜ、そしてどのような時に現れるのか、ご存知でしょうか?
今回は、そんな「天使のはしご」が最も美しく輝く瞬間の裏にある、科学的な条件と、その秘密をひも解いていきましょう。
※この記事は、当講座に在籍する気象予報士が監修しております。
「天使のはしご」はどんな現象?
「天使のはしご」の正式名称は薄明光線(はくめいこうせん)、または光芒(こうぼう)。
英語では「Angel’s Ladder(エンジェルラダー)」や「Crepuscular rays」などと呼ばれる。
チンダル現象の一種。

幻想的な空をもたらす「天使のはしご」。
空から差し込む光の帯は、確かに神々しいように感じます。
この名称は旧約聖書に由来し、天使が梯子(はしご)を昇り降りしている様子から名づけられたそうです。
この現象の正体は「薄明光線(はくめいこうせん)」や「光芒(こうぼう)」と呼ばれる、光の筋です。

大気中のエーロゾル(エアロゾル)が太陽光線(電磁波)を「ミー散乱」し、光の経路が見えるようになる「チンダル現象」で生まれます。
…ちょっと知らない用語が出てきたかと思います。
では、エーロゾル(エアロゾル),「ミー散乱」,「チンダル現象」の意味をみていきましょう。
エーロゾル(エアロゾル)
大気中に浮遊する固体・液体の極めて小さな微粒子で、簡単に言うとチリやほこりのこと。
土壌粒子や人間活動による排出粒子(粉塵)、海由来の海塩粒子などサイズも様々です。
このエーロゾルがきっかけで雲ができます。▶︎「雲を作ってみた」
ミー散乱
「ミー散乱」は、粒子の大きさが光の波長と同じくらいか、それより大きいときに起こる散乱です。

たとえば、水滴やちり、ほこりなどが関係しています。
レイリー散乱(※後述)のように青い光だけが強く散らばるのではなく、波長にあまり関係なく散乱されるので、白っぽい光になります。これが、曇りの日に空が白っぽく見える理由です。
つまり、
- レイリー散乱:分子レベルの小さな粒子 → 青く散る
- ミー散乱:大きめの粒子(ちり・水滴など) → 白っぽく散る
という違いがあります。
さて・・・太陽の可視光がすべて混ざった色は、黄白色です。
例えば、三角プリズムに入射する前の光(可視光線)はほぼ白、分光した後は虹色になっています。
可視光線のミー散乱が起きると、太陽の色に近い白や薄い黄色となるのです。

また次の画像のように、空気がかすんで白っぽく見えるのは、大気中のエーロゾルによるミー散乱、雲が白く見えるのは雲粒によるものです。


※レイリー散乱
ミー散乱とセットで「レイリー散乱」を聞いたことがありますか?
「レイリー散乱」とは、空気中のとても小さな粒子(酸素や窒素の分子など)によって、太陽の光が四方八方に散らばる現象のことです。
特に波長の短い「青い光」が散らばりやすいため、空が青く見えるのはこのレイリー散乱が理由です。
ちなみに、夕焼けが赤く見えるのも、太陽の光が長い距離を通ることで、青い光がよりたくさん散らばってしまい、赤い光が残るためです。
チンダル現象(天使のはしごの原理・しくみ)
「チンダル現象」は、透明な液体や気体の中に、肉眼では見えにくいほどの小さな粒子(微粒子)が分散しているとき、そこに光を当てると、その光の通り道が明るく筋状に見える現象のこと。
チンダル現象が起こるメカニズムは、光の「散乱」によるものです。
媒体(空気や水など)の中に、光の波長と同程度か、それよりも少し大きいサイズの微粒子(例えば、空気中の塵や水滴、牛乳の脂肪球、煙の粒子など)が浮遊しています。
光がこれらの微粒子に当たると、光は直進せずに、あらゆる方向に散らばります。これを「光の散乱」と呼びます。
通常、光は目に見えませんが、この微粒子によって散乱された光が私たちの目に届くことで、光の通り道が明るい筋となって見えるのです。
身近な例を挙げてみましょう。
- 「天使のはしご」(薄明光線): 雲の切れ間から太陽光が地上に差し込む光の筋。
空気中の水滴や塵が太陽光を散乱させて見える、最も有名で美しいチンダル現象の例です。 - 映画館の暗い部屋でのプロジェクターの光: スクリーンに向かって伸びる光の筋は、空気中に浮遊する微細な埃が光を散乱させることで見えます。
- 部屋に差し込む太陽光の中の埃: 暗い部屋の窓から差し込む太陽光の中に、キラキラと舞う埃が見えるのもチンダル現象です。
- 車のヘッドライトの光の筋: 夜間、霧や雨の中で車のヘッドライトの光が筋状に見えるのも、空気中の水滴が光を散乱させているためです。
- 牛乳が白く見える理由: 牛乳が白く濁っているのは、乳脂肪の微粒子が光を散乱させるチンダル現象のためです(ただし、これはミー散乱という光の散乱の一種によるものです)。
では「チンダル現象」を使って、「天使のはしご」を作ってみましょう!
「天使のはしご」をつくってみよう!(チンダル現象の実験)
では、実際に「天使のはしご」をモデル実験でつくってみたいと思います!

【用意するもの】
- 空のペットボトル容器(角型、転がらないもの)
※今回は見やすいよう2Lを使用しています。 - 水道水 2L
- 牛乳 少量
- 計量スプーン
- スマートホンなど強い光がでる光源
- 黒い厚紙(ペットボトルと同サイズ程度)
※なくても可ですが、ペットボトルの裏に固定すると光線が見やすくなります)
では、なぜこのような現象が起きたのか、ひも解いていきましょう。
まず、光源=太陽の可視光線が必要ですよね。これがスマートホンのライトです。
そして、散乱させる粒子=牛乳が不可欠です。牛乳の成分は主にタンパク質と脂肪(脂肪球)でできています。この脂肪球とタンパク質のサイズは大きく違い、脂肪球の方が非常に大きいのです。この脂肪球がエーロゾルと同じ役目を果たし、ミー散乱を起こしているのです。
ところで、ペットボトルの底からキャップ方向に向かって、光の色が変化しているのにお気づきでしょうか?


底部から入射した光は青白く、だんだん黄色からオレンジ色に変化していきます。これは牛乳のタンパク質の非常に小さな粒子が、「レイリー散乱」を起こしているのです。
長い波長である赤ほど遠くまで届き、キャップを赤く染めたのですね。
次に、牛乳の量による色の変化をみてみましょう。



牛乳の量が一番多いときが、オレンジ色が濃くなっていますよね。これを大気に置き換えると、水蒸気の量が多い状態です。
なので、湿度が低い秋冬の夕焼けはオレンジ色、夏の夕焼けは赤に近くなるのです。

そして、「チンダル現象」の光の筋をつくるのに欠かせないのが「雲」の存在です。もし雲がなかったら、どうなるでしょうか?

懐中電灯で照らしてみました。これが雲がない状態です。
スマートホンの場合、光はスマートホン本体の一点から差し込みますが、この懐中電灯では光を遮るものがありません。(光線の幅が広いということ。)
このため、光の筋はほぼ現れなかったのです。
※懐中電灯のタイプによって異なります。
「天使のはしご」の見つけ方・チンダル現象が起きやすい雲
最後に「天使のはしご」に出会うための、コツについてお伝えします。
空に「天使のはしご」がかかるには、次のような条件が必要です。
- 厚みがあって、層状の雲が空に広がっていること
- 雲と雲のすき間が空いていること

このため、高積雲(こうせきうん)や層積雲(そうせきうん)が空にあれば、天使のはしごが発生しやすくなります。
では、高積雲(こうせきうん)や層積雲(そうせきうん)はどんな雲かというと・・・


高積雲:ひつじ雲とも呼ばれ、雲内の規則的な上昇気流と下降気流がうろこ状の形を生み出します。
層積雲:地表付近に弱い寒気が流入しているときに発生しやすく、梅雨期の関東から東北地方の太平洋側でもよく見られます。
さいごに
今回は光の魔法「天使のはしご」についてお届けしました。
「薄明光線(はくめいこうせん)」というように、薄明の時間帯(少し薄暗いけれど周りは見える時間帯、日の出前や日の入り後)には特に出会いやすいですが、日中の明るい時間帯で出会えることもあります。
全国どこでも見られる現象なので、梅雨の晴れ間にはぜひ探してみてくださいね!


※気象予報士アカデミー受講生Keiさんからも天使のはしごの写真をいただきました
【参考文献】
・「世界でいちばん素敵な雲の教室」 著:荒木健太郎 三才ブックス
・「光散乱を利用した牛乳の品質検査」 著:東洋大学 理工学部 応用化学科 勝亦 徹
「気象予報士の資格は取りたいけど、どのように勉強すれば良いのかわからない」
「テキストを買ってみたけれど、わからないことだらけ…」
「一人で受験勉強をする自信がない」
などなど、一人で悩んでいませんか?
気象予報士アカデミーでは、LINEでの受講相談を受け付けております。
友達登録していただいた方には、3分でわかる気象予報士合格ポイント動画をプレゼント!
ぜひご登録ください。
\ 講座へのご質問はお気軽に! /